「木にこだわり、オリジナルのビンテージを作っていきたい」
〈シリーズ_造作で住まい手の暮らしをかなえる人々①〉
「木にこだわり、オリジナルのビンテージを作っていきたい」
有限会社丸晴工務店 代表取締役 濃沼 広晴さん

今回訪れたのは、川崎市を拠点に活動し、地域でも評判の丸晴工務店。宮大工に従事し大工の修行をスタートした先代が創業し、今年で創業67年を迎える老舗工務店です。
二代目である現社長の濃沼広晴さんに、家づくりで大切にしていることや、造作することへの思い、そして造作の延長として新たに挑戦している家具製作について伺いました。
住宅作家の手掛けた住宅と出会い、目指す方向が定まった

丸晴工務店の本社
濃沼広晴さんは大学を卒業後、大手ゼネコンに入社、3年ほど勤めた頃に、先代から乞われ工務店経営の道に。
「それまでは、ホテルや大規模商業施設の設計に携わっていました。ですから、住宅は初めての経験でした(笑)」
しかし、模索している過程で、「京都鴨川建築塾」を立ち上げた、植久哲男さんと出会ったことで、その後の人生が大きく変わったと言います。
植久さんは、住宅専門誌『住宅建築』の元編集長。日本の風土や文化に根ざした住宅を取材し続け、多くの住宅作家との交流があった人物です。
濃沼さんは、「京都鴨川建築塾」を通じて、住宅作家と呼ばれる多くの建築家に出会い、手掛けた住宅を見ることで、目指す「住宅」が定まっていきました。
伝統の技術を継承し、今の時代に合う家を建てる

玄関を入ると、今も注文があるという神輿が置かれていた
丸晴工務店には現在、10人の社員大工が在籍。先代を支えてきたベテラン大工から入社間もない若手大工まで、幅広い年齢層の大工が活躍しています。

今では見ることのない木挽き鋸や墨つぼも展示
「わが社では年間11、12棟建てていますが、すべて手刻みです。大工が木材に墨を付け、手作業で加工していく。この過程を通して、木を深く知ることができると思っています」
実際に丸太を扱う機会が減っている現代、貴重な大工工務店。木造建築には、特別な思い入れがあります。

本社の向かいにある作業場
「一級建築士は4名います。そしてC値の算出や強度計算も自社で。伝統の技術を大事にしつつデータも取り、今の時代に合った家をてています」
白木の“すっぴん美人”の家を建てたい

1階の倉庫には所狭しと一枚板がストックされている
「相談に来る方には、“木の家は生き物。寿司屋が寿司握っているのと一緒”と言うんです。素材が悪かったら味付けする。でも、本当にいいものなら、素材だけで美味しい(笑)」
丸晴工務店では、家づくりの素材である木は、柱や床、さらに見えない構造材も、木曽ヒノキを標準仕様として使用。その材は、山から切り出し、製材・乾燥まで一貫して行う勝野木材から仕入れています。

隣接するショールームの吹き抜け
「私は白木の“すっぴん美人”の家を建てたいんです。ヒノキは肌へのあたりも柔らか。経年変化できれいな飴(あめ)色に変わっていきます。まさにオリジナルのビンテージの家になっていくんです」
今後はヒノキの家具の魅力をショールームからも発信

ショールーム「hinokino」の入り口で広報の上野さんと
濃沼さんは最近、本社のすぐ隣に、ヒノキを使った家具や照明を展示するショールーム「hinokino」を作りました。 オープンは8月を予定しているそう。

ショールームにはヒノキのランプシェードも
インタビュー後、そのショールームを案内してくれました。

NIKARIが作ったヒノキのダイニングチェア
ヒノキのいい香りがする室内には、フィンランドの老舗家具工房・NIKARIの家具が。
「日本でのライセンスを持っている方とご縁ができ、ヒノキを使ったNIKARIの家具を依頼しました。これからはデザイナーを入れて、自社でヒノキの家具を作っていく予定です」

造作家具を前に今後の計画を語る濃沼さん
今後は、キャビネットやテーブルを、ショールームに隣接する加工場で受注生産していく計画だそう。
「受注生産なら、お客様と対話しながら作ることができます。使い方やインテリアに合わせてサイズや形状を決め、永く大事に使ってもらえる家具を作っていきたいですね」
造作するキッチンや洗面台にもヒノキを使いたい

ヒノキの家具作りを熱く語る濃沼さんですが、それができるのは、社員大工の間で宮大工の技術が受け継がれてきたことが大きいと言います。
丸晴工務店では、キッチンや洗面台も大工が造作。 ekrea Partsのキッチン・キットやフレックスシンクを積極的に採用することで、現場の負担を軽減。木にこだわった空間に馴染むキッチンや洗面台を実現しています。
「今挑戦している家具と同じで、住まい手と対話を重ね、これからの暮らしがより豊かなものになるキッチンや洗面台を作りたいという思いもあります」
ここでは2つの事例をご紹介しましょう。

まず1件目。こちらは、窓の外に桜並木が広がる2階リビングの家です。キッチン・キットを採用し、Ⅱ型キッチンのプランにしました。
扉材にはシナの柾目材を使用。扉の上部に取り付けた真鍮メッキの取っ手がアクセントに。ヒノキの床との相性も抜群です。

こちらはもうひとつの事例。ダイニング側から手元が見えないようアイランド部分に腰壁を付けました。腰壁の上には、配膳や片付けにも使えるよう笠木を設け、内側には濃い色のタイルを貼りました。

上の写真はキッチンの壁側。キッチン・キットの幅広キャビネットを組み合わせ、大皿も納まる、大容量の食器収納を実現。そして、コンロ下はフライパンや鍋が取り出しやすいようオープンに。
コンロ脇とキャビネット上部の壁には、アイランド部分の腰壁と同じタイルを貼り、オプションに吊り戸棚も取り付けました。濃いめの塗装を施したシナの扉が、落ち着いた雰囲気を醸し出しています。
濃沼さんには、この造作キッチンや洗面台にも、新たな目標ができたと言います。
「今までキッチン・キットで造作するときには使えていなかったのですが、これからはヒノキ材を張った造作キッチンに挑戦していきたいと思っています。もう、ヒノキパネルも開発しています(笑)」
家とともに美しく飴色に変わっていく造作キッチン。ヒノキにこだわって建てた住まい手にとって、これ以上の造作キッチンはないはず。今から、その誕生が楽しみです。


取材・写真協力:丸晴工務店(まるせいこうむてん)
木と向き合い、技術を磨きながら、永く飽きのこない木組みの家を作り続ける工務店。大工の育成にも力を入れている。
〒214-0004 神奈川県川崎市多摩区菅馬場2-5-10
TEL:044-944-2007
HP:http://www.marusei-j.co.jp/