心地よい自然素材の家と手触りのいい造作キッチンで“場を生む”建築家

〈シリーズ_造作で住まい手の暮らしをかなえる人々 5〉
「心地よい自然素材の家と手触りのいい造作キッチンで“場を生む”建築家」
バウムスタイルアーキテクト 代表取締役 藤原 昌彦さん

今回ご紹介するのは、岡山県を中心に活躍するバウムスタイルアーキテクトです。代表の藤原昌彦さんは、建設会社や工務店で現場を経て14年前に事務所を設立しました。それまでの経験を活かし、県内に建てる家については、設計・施工一貫で、相談に乗っています。

自然を取り込み、自然素材にだわって設計した家には、居心地のいい場所が至る所にあります。そして、LDKには、空間に馴染んだ、手触りのいいキッチンが。 

藤原さんの住まい手を魅了する設計と、造作への思いを伺いました。

バウムスタイルアーキテクトという事務所名に込められた2つの思い

「南区の離れ」の2階にある藤原さんのアトリエ

バウムスタイルアーキテクト代表の藤原さんは1975年生まれ。建築家を目指すきっかけとなったのは、高校生のときに写真で見た菊竹清訓のスカイハウスでした。目にした瞬間、「なんてワクワクする建築なんだろう!」と強く惹かれたそうです。

しかし、何から始めたらいいか分からず、高校卒業後は香川県職業訓練短期大学へ。その後、建設会社で内装や、公共建築の図面作成などの仕事をしたのち、工務店で現場監督に。様々な建築の現場を経験し、36歳のときに設計事務所を設立しました。

事務所名にあるバウム(Baum)は、ドイツ語で「木」。木の家を設計していきたいという思いが込められています。さらに…、藤原さんはもう一つの思いも込めたそう。

「バウムって、日本語の “場を生み出す”の音に似ていませんか? 小さくても、木と自然素材で、暮らしを楽しむ“場”がたくさんある家を建てていきたい。その思いを込めて事務所名にしました」

藤原さんは、それまでの経験を活かし、通常の設計事務所とは少し異なるスタイルをとっています。それは、岡山県内は原則、設計と施工を一貫して受けるということ。

仕事の量も年間7棟と決め、信頼のおける現場監督や大工とチームを組み、1軒1軒手をかけて、住まい手に届けています。

豊かに暮らす設計の工夫を詰め込んだ「南区の離れ」

アトリエのある「南区の離れ」

アトリエがあるのは、8年前に実家の一角に建てた「南区の離れ」(写真)。切妻の屋根に焼杉の壁に囲まれた、2階建て延床面積わずか20坪の小さな家です。

1階のLD。それぞれに大きな開口で外と繋がる

藤原さんは、このアトリエ兼モデルハウスを体感することで、相談に来た人にこれから建てる家で豊かな時間を過ごすために必要なことと、そぎ落とした方がいいことを感じ取ってほしいと設計したと言います。

玄関を入ると、無垢の木床と珪藻土の塗り壁に包まれた、気持ちのいいLDKが広がります。ダイニングの先には、アウトドアリビングとしても使えるデッキが。視線は、その先の緑へと抜けていきます。

薪ストーブの置かれたリビングは吹き抜けに。こちらにも大きな開口があり、縦と横の抜けと障子から漏れた優しい光が、くつろぎの空間を生み出しています。

「家全体が一室空間になっています。行き止まりがなく視線が抜けていくので、訪れた人は、想像していた以上に広く感じるようです。そして、くつろいで過ごせる“場” がたくさんあることに気づいてくれます」

アトリエに上がる階段(左)と、その途中にある藤原さんの席(右)

アトリエは、リビング脇にある階段を上がった2階にあります。その途中にある踊り場のような場所が藤原さんの席です。

その先にある天井表しの伸びやかな空間で、4人の所員が働いています。

「南区の離れ」を体感した相談者は、間取りより大事なことに気づきます。そして、家具や建具や造作したキッチンが、愛着の湧く家には大事なことも。

では、さっそく藤原さんが設計した家をご紹介していきましょう。

大らかな吹き抜けのLDKに馴染むⅡ型キッチンがある家

まず1件目。こちらは夫婦と3人の子どもが暮らす「鴨方の家」です。

サンルームの奥に広がるLDKは、屋根表しの大らかな空間。床には杉板を張り、珪藻土の塗り壁に。

キッチンはシンクとコンロを別にしたⅡ型プランに。ダイニングにいる家族と目線がフラットに合うように、一段下げています。床にはメンテナンスがラクな大判のタイルを貼っています。

キッチンの本体にはekrea Partsのキッチン・キットを採用。シンクのある対面側は奥行1000mm(650mmもしくは900mmが一般的)しにして、リビング収納を造作しました。

袖壁や扉材にはナラの突板を使用。取っ手は藤原さんがデザインしたものです。ナラの無垢材で、建具屋に依頼。

「キッチン・キットは使いやすいので、よく使っています。キャビネットを組み合わせて、天板のサイズを相談して、あとは、建具屋に扉依頼すれば、どんな空間にも合うキッチンが作れるところがいいですね」

天板のサイズを特注しても、比較的安価で作れることにもメリットを感じているそう。

ライフスタイルに合った2つキッチンがある二世帯住宅

次のお宅は、二世帯8人が暮らす「真備町の家Ⅲ」です。

親世帯(南棟)、息子世帯(北棟)の二棟を配置し、玄関や水まわり・個室で繋いだロの字型の構成に。それぞれのLDKは、気配が伝わるよう、中庭を介して対面しています。

子世帯は、子どもたちとの会話が弾む対面キッチンに。デッキで遊ぶ姿も見守れます。キッチン本体には、キッチン・キットI型の幅2550mmを使用しました。

一方、親世帯はキッチン・キットのⅡ型キッチンコンロ部とシンク部を横に並べて幅3600mmの壁付に。

ともに家のテイストに合わせ、仕上げや取っ手には同じ材を使っていますが、プランはまったく違うものになりました。

こうしたことが比較的簡単にできるのも、キッチン・キットならでは。仕上げ材の選び方次第で、どんなテイストのキッチンにもできる、カウンター(天板)とシンク、キャビネットがセットになったベースキットがあるからです。

食事を楽しむ場を優先した小さな家の使い勝手のいいキッチン

3件目は、住宅密集地に立つ、延床面積27坪弱の比較的小規模の「円山の家」です。

住まい手の要望は、「外部からの視線を抑えつつ、開放的で、緑と食事を楽しめる小さな家」。

そこで藤原さんは主室にリビングを設けず、ダイニングとキッチンだけに。そして、高さ4.6mの吹き抜けと、ウッドデッキと繋がる1.5m角の開口を設けました。

ダイニングをできるだけ広くとれるよう、キッチンは壁付に。テーブルと程よい距離感の使い勝手のいいキッチンができました。

キッチンのキッチン・キットのI型コンロ部とシンク部を横並びにして、4.5mを超える長いキッチンに。ダイニング側の端には家事コーナーを設けました。

右の写真は、ダイニング側から見たところ。実は奥にあるパントリーは、玄関に繋がっています。ですから、主室を通らずに買い物の整理は完了!

限られた床面積のなかで、食事を楽しむ場を広くとれ、なおかつ使い勝手抜群のキッチンになりました。

フル造作の苦労を経験して、たどり着いたキッチン・キット

不要なものをそぎ落とし、場所とサイズが決まった狭小住宅のキッチン(伊福町の家)

今では、キッチン・キットを活用して、敷地や住まい手の要望にあうキッチンを実現できている藤原さんですが、それまでには苦労も多かったと言います。

「自然素材に馴染むキッチンをつくりたいと、フル造作していた時期もありました。家具屋に発注するのではなく、木工事で作ろうとしていたので苦労しました。下台となるキャビネットだけでも何枚も図面を描かないといけません。さらに天板は図面を描いて発注しないといけない。いちばん困ったのは金物。仕上がりが大工の腕に左右されることも避けられませんし、大工仕事で作った引き出しは、開け閉めしもしにくかった…」

北側に寄せたことで幅4.5mのワイドなキッチンと広いダイニングを実現(伊福町の家)

また、既製のキッチンにはデザイン以外にも、違和感があったと言います。

「既製のキッチンは、機能性を追求するあまり、使わない機能が多すぎます。そして“その機能は要らない”と言うと、特注となり逆に高くなってしまう。程よく使えるキッチンで十分なんですけどね」

それに、限られた予算でいい家を建てようと思っても、決して安いとは言えないシステムキッチンの金額分とられてしまう。そのことも大きいと言います。

考えれば考えるほど、自然素材の住み心地のいい家を建てるには、造作する以外に手はないと考えた藤原さんでしたが、その後、ekrea Parts「キッチン・キット」との出会いで、その苦労から解放されます。

取っ手も造作することで愛着が生まれる(伊福町の家)

「細かな図面を描く手間がなくなり、金物や引き出しの問題も解消されました。15㎝、30㎝、45㎝…キャビネットの幅を計算すれば、あとは納品され現場で組み立てればいい。納めたい場所に、きれいに納まるんです」

「お話を聞いていて、藤原さんは、様々な建築現場の経験やフル造作に挑戦したことで、キッチン・キット上級者としての使い方をしているように感じました。

通常、システムキッチンを採用すると、そのサイズを図面に落とし込むことになりますが、藤原さんは、よりよい空間や場を作ることを優先し、図面を優先して納まりのいいサイズのキッチンを落とし込みます。

結果、天板のサイズが特注になっても、藤原さんはキャビネットをうまく組み合わせたり、家事コーナーを作ったりして、使い勝手のいい“場” を生み出します。

「住まい手には美しく暮らしてほしい。そのために美しい家をつくりたい。だからキッチンも重要です。家の中でいろんな楽しい暮らし方をして欲しいと思っています」

藤原さんがこれからも作り続ける「場を生む家」から、目が離せません。

写真協力/「鴨方の家」「真備町の家Ⅲ」「伊福町の家」:笹倉洋平(笹の倉舎)

「円山の家」:田中園子(クオデザインスタイル)

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