KEN建築工房(前編)

〈シリーズ_造作で住まい手の暮らしをかなえる人々26〉
「設計力と性能の知識を武器に、木の心地よい家を届ける大工集団」(前編)
株式会社KEN建築工房 代表取締役 田中健太さん

製作した模型を手にプランを説明する田中社長(事務所にて)

今回は、大阪府富田林市を拠点に活動し、地元で評判の工務店「KEN建築工房」を前後編の2回に分けてご紹介します。

社長の田中健太さんは、幼い頃から「いつか自分の建てた家に住みたい」と大工の道へ。棟梁も経験し、2015年に同社を創業しました。 その後、設計力を磨き、自分の家を建てたところ、冬の寒さに衝撃を受けることに。そこから住宅性能の大切さを知り、断熱の最新技術を学びます。

そして今では、培った設計力と大工の造作の技術に加え、一年中快適に過ごせる住宅性能も提案する工務店として人気を集めています。

前編では、田中さんの家づくりと造作への想いをインタビュー。後編では、キッチン・キットをベースに、住まい手の暮らしに寄り添って実現した造作キッチンをご紹介します。

少年時代に夢見た「いつか自分の家を建てたい!」が原点

大阪・富田林市にあるKEN建築工房の本社

田中さんは27歳で「KEN建築工房」を創業し、今年で12年目を迎えます。

「実は当初、工務店をつくるという明確なイメージがあったわけではありません。子どもの頃に団地で暮らしていて、『いつか自分の手で一軒家を建てて住みたい』と、大工の道に進みました。その後、棟梁にもなりましたが、大工の技術だけでは、本当の意味で家を建てることはできないと気づいて…(笑)。2015年に、KEN建築工房を立ち上げました」(田中さん、以下同)

家を建てるには設計、そして役所に建築確認申請が必要です。また、住まい手のために税制優遇や、補助金の認定申請などの複雑な手続きを担うことも。これらを円滑にこなすためには、組織としての基盤が必要だったのです。

手がける家の床は、香りが良く足触りもいい無垢材に

そして、ついに自邸を建てる機会が訪れます。

「元大工ですから、木にはこだわりました。しかし、当時は断熱や気密といった住宅性能の勉強は、まだしていませんでした。現場ではウレタン吹き付け断熱が主流で、建材屋さんも『これで断熱等級4が取れますよ』と言う。自分なりに窓の性能にもこだわってサッシを選んだはずなのに、いざ住み始めると、冬の足元がとにかく冷えるんです。『これでもダメなのか』とショックを受けましたし、自分が本当につくりたいのは、こんな家じゃない!と、はっきり分かりました」

この苦い経験から田中さんは、ドイツで生まれた世界最高水準の省エネ基準・パッシブハウスの普及を目指す「一般社団法人 パッシブハウス・ジャパン」や、次世代省エネ基準をはるかに超える「Q1.0(キューワン)住宅」の普及を掲げる「一般社団法人 新木造住宅技術研究協議会」に加盟し、本格的に住宅性能を学びます。

「現在は、断熱性能等級6(地域区分6においてUA値0.46以下、等級4の約2倍の断熱性能)を標準仕様としています。寒い時期、見学会に来られた方からは、『今住んでいる家と暖かさが全然違う!』と言われます」

自分の家を建てて痛感した性能の重みが、今や同社の大きな武器となっています。

お客様には、「自分が住みたい!」と思う家を提案したい

プレゼン時には必ず模型をつくり、ペンライトで光の入り方なども説明する

住宅性能はとても大事なこと。しかしそれ以外にも、決して手を抜いてはいけないものがあると、田中さんは言います。それは、住む家族にいちばん合う家のカタチを、安易な妥協はせずに考え提案すること。

田中さんの「KENのブログ」を読むと、設計や現場への熱い想いが書かれています。その一部をご紹介しましょう。

・分からないまま進めない
・打ち合わせは、決めたことを確認する場ではなく、暮らしの土台を一緒に考える時間
・10年後に自分に説明できない判断はしない
・家の評価は、時間が決める …

住まい手と真摯に向き合い、実施図面が出来上がると、同じ想いで家と向き合う自社大工の手に渡ります。

「お客様はどなたも、『自分らしい家』を願っていらっしゃいます。 ですから私たちは、お客様一人ひとりの身体のサイズや暮らし方に合わせ、テーブルや収納棚、ソファといった家具も、できるだけ造作するようにしています。もちろんキッチンや洗面台も同様です。 3人の自社大工は、細かな手仕事にも熟練しているので、手間のかかる造作も厭わず、いつも丁寧な仕事で応えてくれます」

さっそく、性能、設計、そして造作にもこだわったKEN建築工房が建てた家をご紹介しましょう。

事例1.キッチン・キットを採用した、大工の手仕事と木の温もりが感じられる家

杉板張りの外観。左手には深い軒のウッドデッキがある

こちらは家族4人と猫14匹が暮らすペット共生住宅。外壁には杉板を張り、木材防護保持剤のウッドロングエコを塗布。延床面積は42.3坪です。

1階の大きな窓の向こうには玄関土間が。そして、写真左手にはバーベキューが楽しめ、リビングの延長としても使えるウッドデッキがあります。

「お客様の要望は、まず飼っている14匹の猫と、人間が快適に住める家。それから、前の家では人を呼べなかったけど、人を招いてバーベキューができるようにしてほしいということでした」

石を敷き植栽を配した趣のある玄関土間

駐車スペースから階段を上がり、玄関のドアを開けると、木曽石を敷き余白に植栽を施した7畳の開放的な空間が広がります。

この玄関土間には3つの動線が。手前には家族用の玄関、その先、縁側のようになっている場所は、来客用の玄関です。その先には、靴を脱がずにそのまま行けるウッドデッキにつながっています。

「友だちの家にバーベキューをしに行っても、玄関で靴脱いで、庭に出るときまた靴持って行かないといけないようなことありますよね。だったらそのまま行けるようにすれば、靴持って行かなくてもいいなと思って、このようにプランしました」

玄関土間から見たLDK

床の吉野杉の木目が美しいLDKは16畳。吹き抜け、掃き出し窓を介してつながるウッドデッキがあることで、体感的にはそれ以上の広さを感じられます。

そして、写真右手の室内窓の先にはキャットルームを設け、猫も快適に過ごせるような工夫が施されています。

「テレビ台やソファは、大工の手による造作です。ソファは下の部分だけでなく、ひじ掛けの部分も収納になって、見学会に来られたお客様にも人気です」

キッチンからもアクセスしやすいウッドデッキ

さらに…こちらのダイニングテーブルやキッチンも造作しています。

「ダイニングテーブルは、ブラックチェリーのはぎ材でつくりました。そして、キッチンはekrea Partsのキッチン・キットを採用して造作。I型の対面キッチンにすると通路が狭くなってしまうところ、Ⅱ型のシンク部とコンロ部を組み合わせたことでスムーズな動線と収納を確保できました」

断熱(UA値)は等級6(G2レベル)。気密(C値)も0.12と最高水準の住宅性能を確保しつつ、各所に大工の手仕事と木の温もりが感じられ、豊かな家族の時間を過ごせる住まいができました。

事例2.木デッキが豊かな時を刻む、心地よい和モダンの平屋

南向きのウッドデッキとリビングに日が注ぐ住まい

こちらは家族4人が暮らす、延床面積34坪の平屋です。外壁には100%自然素材の「そとん壁」に。ウッドデッキには、外部手洗いも設置しました。

住まい手からは、庭でバーベキューをしたり、ウッドデッキでコーヒーを飲んだりして、くつろぎたいというご要望があったと言います。

くつろげるウッドデッキは、もう一つのリビング!

「ウッドデッキを部屋の一部として使えないかといつも考えていて…。なぜ使われないウッドデッキが多いのか、その原因は大きさが中途半端で、雨ざらしだからだと分かったんです。そこで、KEN建築工房のウッドデッキは、軒を深くして奥行きを3m近くとるようにしています。こちらのウッドデッキはその一例。多少雨が降っていても濡れず、椅子に座って本を読むこともできます」

LDKは大きな開口から日が注ぐ明るい空間

床に吉野杉の無垢材を張ったLDKは21畳。大きな掃き出し窓の先には、同じく杉材を張ったウッドデッキが広がります。

「実はこの家で、カップボード部分に初めてキッチン・キットを採用しました。サイズはW2440mm×D450mm。扉をタモの幅はぎ材でつくったことで、木に包まれた空間によく馴染んでいます」

天井近くまである玄関の引き戸や和障子が和の雰囲気を演出

掃き出し窓の和障子や、玄関との間の縦格子といった建具も、この家のために造作。高気密高断熱仕様で、一年中快適に暮らせて、和のテイストも楽しめる家になりました。

次回は、キッチンにフォーカスして、造作することで実現した快適な暮らしをご紹介します。

後編に続く

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