あすなろ建築工房(前編)

〈シリーズ_造作で住まい手の暮らしをかなえる人々29〉
「設計事務所×工務店の総合力で、長く愛される心地よい家をつくる」(前編)
株式会社あすなろ建築工房 代表取締役 関尾英隆さん

あすなろ建築工房代表取締役・関尾英隆さん(ミーティングルームの入り口で)

今回は、横浜市を拠点に活動し、地元の評判はもとより、全国の工務店からも注目されている「あすなろ建築工房」を、前後編の2回に分けてレポートします。

代表の関尾英隆さんは、東京工業大学(現・東京科学大学)大学院を修了後、日本最大の組織設計事務所「日建設計」へ。名だたる巨大プロジェクトに携わってきた輝かしい経歴の持ち主です。

転機となったのは、知人の住宅設計。現場の職人や施主との交流に心を動かされ、退社を決意します。その後、工務店で木造建築の基礎をゼロから学び直し、設計事務所の設立を経て、自ら施工を担う工務店を立ち上げました。

緻密な設計力と性能への深い知見、そして熟練の大工の手仕事が融合して生まれる家は、どれも住まい手への愛情に満ちたものばかり。

前編では、関尾代表の「愛される家をつくりたい」という想いと、それが形になった2つの住まいをレポート。 そして後編では、住まい手が愛おしむ暮らしを支える「造作」にフォーカスし、ekrea Partsの『キッチン・キット』や『フレックスシンク』の採用事例を、豊富な写真とともにご紹介します。

「ありがとう」の一言に惹かれ、組織設計事務所から住宅の世界へ

横浜市南区にあるあすなろ建築工房の外観

あすなろ建築工房の設立は2009年。創業50年、60年といった老舗がひしめく工務店業界にあっては、比較的新しい存在です。しかし、その評判は、地元はもちろんのこと、マスコミや同業者にも広く知られ、新聞やテレビ番組から取材を受けることも少なくありません。

代表の関尾英隆さんは、東京工業大学大学院を修了後、日本最大の組織設計事務所「日建設計」に就職。最先端の超高層ビルの設計や都市開発のプロジェクトに携わりました。

「日建設計では、充実した毎日を過ごしていました。その傍らで知人の住宅の設計を引き受けていたのですが、週末に現場に通っていると、職人さんたちとのやりとりがとても心地よく、一日の終わりのビールは格別。また、引き渡しのときに言われた、『ありがとう』の一言がうれしくて、自分がやりたかったのはこれだ!と気づき、10年の節目で退職しました」(関尾さん、以下同)

大きなプロジェクトは5年、10年という長いレンジで進みます。それに対し、住宅設計の現場で「自分が図面に描いたものが、目の前で形になっていくスピード感」にもワクワクしたと言います。

入口に掲げられた一枚板の看板

退社後、関尾さんの新たな挑戦がスタートします。

「実は木造住宅のことをしっかり理解していたわけではありませんでした。そこで伝手をたどって、木造住宅と真摯に向き合っている工務店に入社しました。そして3年間、現場監督、大工の補佐、営業、設計と木造住宅に関するあらゆる仕事に従事。家づくりの基礎をみっちり学びました」

その後、設計事務所を設立。念願の住宅の設計に専念した矢先、お世話になった工務店の社長の訃報が届きます。

「進行している物件が止まらないよう、急きょ工務店に戻り、一時的に世話になった社長の代わりを務めることになりました。残念ながら、お世話になった工務店は、相続の関係で廃業することになりました。その工務店で働くスタッフや大工さんの仕事を途切らせないよう、自分の設計事務所に施工部門を新たに新設する形で、「設計事務所+工務店」のスタイルとなる、現在の『あすなろ建築工房』を設立しました」

設計事務所の設計力と工務店の技術力で、長く暮らせる快適な家を

ミーティングルームには、今までに設計・施工した住宅の模型が壁一面に

関尾さんは、当初は工務店を自ら設立することまでは想定していなかったと言います。しかし、設計と施工が一体となることのメリットは計り知れません。

「設計事務所には、新しいことや他と違うこと、ときには奇をてらうことで目立たなければならない側面があります。しかし、工務店は『守り』ができるため、奇をてらう必要はありません。お客さまも『雨漏りしてもいいから、カッコいい家にしてほしい』とは望んでいないはずです。設計から施工までを自社で責任を持ち、20年、30年先も安心して住み続けられる家を建てる。ある意味『守りのディテール』で、コストパフォーマンスの高い住まいを提案できることが、設計・施工一貫の強みだと考えています」

基本設計時は模型をつくり、日の入り方や家事動線を細かく説明

あすなろ建築工房が手がける住宅には、おこもり感のあるカーペット敷きの「小下がりリビング」や、ごろんと横になれる畳敷きの「小上がりリビング」、家事がしやすい「造作キッチン」、洗濯がラクにできる「洗面家事室」など、定番ともいえるいくつかの共通項があります。

「工務店設立後も、住宅作家と呼ばれる方々の見学会に何度も足を運び、心地よさを生む設計をたくさん学ばせてもらいました。もうひとつ、日建設計時代にホテルを多く手がけ、さまざまな高級ホテルを見てきた経験から、居心地のよさが“肌感”で身についているのかもしれません」

関尾さんは、「ホテルがなぜ居心地がいいかというと、空間に“家事”の要素が一切ないからだ」と教えてくれました。

一般的な住宅で生活感が出てしまいがちなのは、洗濯物や洗い物といった“家事”の風景が見えてしまうから。

「住宅も“家事”の要素を上手く切り離して見えなくすれば、とても居心地がよくなるはず。そのことは常に心がけて設計しています」

ミーティングルームの隣にある設計室。席はフリーアドレス

長く快適に住める家にするために、住宅性能にも強いこだわりを持っています。

「断熱性能はHEAT20 G2グレード(冬の朝でも寒さを感じず、家じゅうどこにいても快適に過ごせるレベル)をクリア。そして耐震性能は、最高レベルの耐震等級3を基本仕様にしています。万が一の大地震が起きたとき、住めなくなってしまっては困りますから、地盤の状況も徹底的に調査した上で構造設計をおこなっています」

家への愛着は、日々の手触りや使い勝手から生まれるもの。だからこそ、既製品の新建材やビニルクロスは一切使わず、歳月を重ねるごとに味わいが増していく自然素材のみを選び抜いています。キッチンや洗面も、それぞれの暮らし方に合わせて造作にこだわります。

では、こうした家づくりの想いから誕生した、実際の住まいをご紹介しましょう。

事例1. 設計の工夫と造作が随所に。住むほどに愛着が深まる二世帯住宅

街並みに溶け込む優しい外観

まずご紹介するのは、新たに土地を探し、二世帯住宅に建て替えた事例です。

「二世帯住宅は、年に20件くらい問い合わせがあります。しかし、実際に設計するのは1軒か2軒。その理由は、お客さんが思っているほど、住むのが簡単じゃないからです。だから、最初はどちらかというと潰しにかかるのですが(笑)、こちらのお客さんは、私が出したチェックリストをすべてクリアされました」

設計のポイントは、お互いの絶妙な距離感と、将来親世帯が亡くなったあとに世代が入れ替わって住み継いでいける間取りの柔軟性。

完成した住まいは、職人の手仕事が感じられる耐久性の高いジョリパットと、温もりのある板張りを組み合わせた優しい外観。周囲の街並みにも、美しく馴染んでいます。

高さを抑えた壁で開放感を演出し、背後には土間収納をプラン

木の格子で目隠しされた先には、洗い出しの広い玄関が。靴の脱ぎ履きの負担を軽くするために造作したベンチは、季節の移ろいをともに楽しむ「飾り床」としても使えます。

そして、その向かいには、あえて高さを抑えた独立壁が。天井が繋がり、視線が抜けていくことで開放感が生まれました。

その背後には、たっぷり収納できる収納棚を造作。生活感をさりげなく隠すことで、家の顔にふさわしい玄関になりました。

1階・親世帯のダイニングと小上がりスペース

1階は親世帯のスペース。窓側の天井部分にアールをつけたことで、LDK全体が優しい光で包み込まれます。

「リビングダイニングはくつろぐ場所。くつろぐ場所が閉鎖的だと気が滅入ってしまいます。そこで、視線をさえぎりつつ、できるだけ遠くが見えるよう窓を設けています」

奥側には多目的に使える小上がりが。旧家にあった思い出深い欄間を再利用しました。家の記憶を引き継ぎ、心地よく穏やかな時間が流れる空間です。

キッチンの面材は、床材と同じオークを選択

キッチンは、ekrea Partsの「キッチン・キット」(壁付けのコンロ部分W1950mm×D650mm、対面のシンク部分W1950mm×D650mm)」を採用し、一部を家具造作したⅡ型タイプです。

扉には、床に張ったオークの無垢材と合わせ、オークの突板を張ったことで、LDKの空間によく馴染んでいます。

2階の子世帯のLDK。視線が外に抜けていき心地よい

こちらは2階の子世帯のLDK。太陽光パネルを載せた屋根の形状に合わせた勾配天井に。南側に設けた大きな開口から日差しが降り注ぐ明るい空間です。

窓際に渡した長い板は、読書をするベンチやリビング学習の机にも。様々なシーンで活躍します。

カーペット敷のリビングと小上がりが

ダイニングの奥には、カーペット敷きのリビングと小上がりが。おおらかな一室空間で、家族それぞれが思い思いの時間を過ごせるプランです。

子世帯のキッチンも造作

こちらのキッチンは、オーダーステンレスキッチン天板(壁側コンロ部W2700mm×D650mm、対面シンク部W2100mm×D1050mm)を採用。下台にキッチン・キットとフロアキャビネットと造作家具を組み合わせたⅡ型アイランドキッチンです。面材は、1階と同じくオークの突板に。

「対面キッチンのダイニング側に、家具工事で収納をつくるケースが多いです。このケースでは、引き出しの奥行きが300mmとれますから、大体のものがしまえ、生活感が出がちなものを隠すことができます」

木の温もりに包まれた洗面家事室

ランドリールームを兼ねた洗面室にはekrea Partsの「フレックスシンク」ハイバックタイプを採用し、下台は家具工事で造作。横の壁の収納棚や、ガス乾燥機がぴったり納まる棚は木工事で取り付けました。

とかく冷たい印象になりがちな洗面室も、機能性と温もりを兼ね備えた心地よい場所になりました。

事例2.家事がラクになる動線と造作収納で、すっきり快適に過ごせる住まい

吹き抜けのダイニングと、おこもり感のあるリビング

次にご紹介するのは、四方を隣家に囲まれた旗竿敷地の家。延床面積31.5坪です。

LDKは、キッチンと小下がりリビングが、吹き抜けのあるダイニング空間を介してつながるL字型の配置に。

ソファに座り外を眺めると、視線が遠く抜けていく

「お施主さんの希望は1階リビングの家。そこで、いちばん居心地のいいところを、見つけるところから設計プロセスが始まりました。そして唯一、日が入り視線が抜ける場所に開口を設け、リビングを配置しました」

床のレベルを下げたリビングには、ウールのカーペットを敷き、造作ソファを設置。キッチンやダイニングと一体の空間でありながら、おこもり感があり落ち着く、家族のお気に入りの場所になりました。

キッチンの仕上げはオークの突板で統一

キッチンはekrea Partsのオーダーステンレスキッチン天板(サイズはともW1800mm×D650mm、シンクはポケット付きEシンク)を採用したⅡ型。

キッチンの周りを少し立ち上げたことで、玄関側(写真手前)からもダイニングからも、手元を隠し生活感を切り離しています。

「フレックスシンク」と、木のカウンターをつなげた洗面家事室

ダイニングの奥には、洗面家事スペースがあります。洗面台にはW1200mmの「フレックスシンク」ハイバックタイプを採用。洗面ボウルの位置を一方に寄せたことで、お化粧スペースが生まれました。その下にはスツールを収納できるスペースも。

ランドリースペース側に、アイロン掛けができるカウンターを伸ばすのも、あすなろスタイル。

「お風呂があって、その横に洗面台と洗濯機がある家事室をつなげるプランは多いですね。このお宅も、洗濯が終わったら、室内にも外にも干せるようにプランしました。干していてもLDKからは見えません」

くつろぐ場所からは、生活感が出るものをシャットアウト。そして、家事動線もしっかり考えられた、長く快適に暮らせる家です。

後編に続く

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